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まえがき
静かな屋敷の片隅で、わたくしは名ばかりの伯爵として日々を過ごしておりました。
話し相手もおらず、時計の音だけが鳴り響く広い部屋。
ただ、ひとつ──想像だけは、いつもわたくしのそばにありました。
ある晩のことです。
屋敷の外では雨が静かに降りしきり、その音に紛れて、ふと、誰かの気配を感じました。
「天気が悪い時には、ミルクティーがおすすめなの」
そう耳元でささやいた声が、わたくし自身のものであったのか──
それとも、本当に誰かがあのとき傍にいたのか。今となってはもう、確かめる術もございません。
けれど、それをきっかけにしてでしょうか。
気配は日ごとに増してゆき、やがて屋敷には“彼ら”が集うようになりました。
名前も姿もさまざまな住人たちが、まるで昔からそこにいたかのように、
自然にわたくしの世界へと現れたのです。
気づけば、わたくしは彼らの物語を“書きとめる者”になっておりました。
この物語は、孤独な伯爵の屋敷から生まれた、ささやかな幻想にすぎません。
けれど──もし、あなたが扉を開き、この世界に足を踏み入れてくださるのなら。
その瞬間、この幻想は、ほんの少し現実へと近づくことでしょう。
お好きなときに、お好きな扉からお入りください。
わたくしの屋敷の住人たちは、きっと、あなたをお迎えする準備を整えております。
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